その「男」
中指を立てて
相手を怒鳴リ散らせば
それで終わり
肩がぶつかるその拍子
お気に入りのネックレスが
汗で首に張り付いた
その感覚に苛立って
ヤキを入れてやる
その「男」
中指を立てて
相手に唾を吐けば
それで終わり
血がのぼる
頭にくる
腹が立つ
むかつく
打ちのめす
気を晴らす
その「男」
２３年前生まれた時は可愛くて
よく女の子に間違われた
その「男」
兄が二人居る末っ子
裕福な家に生まれた
でも
両親が早く亡くなり
少しずつ…
少しずつ…
少しずつ…
周囲の雑音に育てられ
変わっていく
幼い少年の心に産まれた溝を
誰も気づかない
誰も埋められない
誰も救えない
いつか
世の中が
社会が
親が
兄弟が
自分を駄目にした
と
感じて
考えて
もっと
自分を
悲しめた
辱めた
傷つけた
知らないうちに
その「男」
今すれ違った
その「男」
木の股から生まれてきた訳ではない
美しい心を神様から授けて頂いた筈
その「男」
中指を立てて
相手を睨みつければ
それで終わり
その「男」
今振り向いた
その「男」
けして
獣では無い
熱い血がかよう
情に飢えた
寂しい
「人」
これからも…
この先も…
残りの人生も…
ー紫紅草ー
